音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

フライング・リザーズと『Money』

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 以前にジャケ買いの話を書いたことがあるんですが、今回はそれでいちばん当たった(と音吉が思っている)アーティストを紹介したいと思います。
 ご存知ない方のためにカンタンに説明しますと、ジャケ買いとは、ダウンロード販売もないレコードの時代に、曲もアーティストも知らないのにジャケット(レコードのケース)だけで善し悪しを見定めて買う、ある種の博打です。国内盤より3~5割は安く買える輸入盤がターゲットでしたから洋楽POPS専用のお遊びだと思い込んでいたんですが、国内盤でも、
「アーティストは知ってるけど曲は分からない。けどジャケットが気に入ったから買ってみよう」
 なんていうのもジャケ買いと呼んでいるみたいです。
 高校生の頃のバイト代はジャケ買いで消えてましたね。学校が終わると、とあるジャズ喫茶に直行。そこで小一時間ぐらいジャズを聴きながらコーヒーを飲んでいると、別に約束したわけでもないのに方々の高校から仲間が集まってくるんです。今のようにメールやSNSはおろかケータイすらなかった時代はこんなもんだったでしょう。
 こうして集まった仲間と輸入レコード店を回ってジャケ買い(もちろん買わないことだってあります)を楽しみ、後日、再び顔を合わせたときにレコードの情報交換をするんですが、こうして共有する情報ってバカになりませんでしたよ。当時の音楽情報誌やラジオ番組なんかよりも、半年以上は早く情報をキャッチしていましたから。
「せっかくのバイト代がもったいない」
 と思うかもしれませんが、5枚買えば3枚は当たるほどジャケ買いって当たるんです。スカだったレコードも、仲間同士で交換したり中古レコード店に売ったりするので、決して無駄遣いではありませんでした。

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 そんなジャケ買いをした中で、今でも大当たりだったと思えるレコードは何枚もあるんですが、とりわけ記憶に残っているのがイギリスのニュー・ウェーブ・バンド「フライング・リザーズ(The Flying Lizards)」です。
 "new wave"というと、本来なら新しいスタイルの音楽はすべてニュー・ウェーブなんですが、POPSの世界では、パンク・ロック以降の1970年代後半から1980年代前半にかけてイギリスで流行ったポスト・パンクやテクノ・サウンドなどを指す特殊な意味で使われています。その点、フライング・リザーズは「実験的な」という意味合いで、まさにニュー・ウェーブ・ミュージックだったと思います。
 空飛ぶトカゲという摩訶不思議な意味のフライング・リザーズは、1976年に音楽プロデューサーで作曲家のデイヴィッド・カニンガム(David Cunningham, 1954 - )が結成したバンドなんですが、正確にはバンドというよりも、その時の音楽の方向性や目的によってメンバーが替わるセッション・バンドに近いものでした。なのでメンバーは曲またはアルバムによってバラバラ。ここでは面倒なので逐一、紹介しません。
 特筆すべきメンバーはスティーブ・ベレスフォード(Steve Beresford, 1950 - )でしょうか。スティーブはフリー・インプロヴィゼーション(即興音楽)の世界で名を知られるミュージシャンなんですが、面白いのは扱う楽器です。鍵盤楽器から管楽器、ベースギターなど様々な楽器の演奏をこなす以外に、鍵盤ハーモニカや玩具のピアノ等々、およそ音の出るものなら何でも使って音楽を創りあげることができるある種の天才といっていいでしょう。
 今回アップする『Money』は、フライング・リザーズで唯一ヒットしたシングル盤で、1979年に発売されました。バレット・ストロング(Barrett Strong, 1941 - )の作曲した同曲のリメイクなんですが、スティーブ・ベレスフォードのきチープでタイトなサウンドが光るニュー・ウェーブ・サウンドに変貌しています。
 まずはバレット・ストロングによる原曲をお聴きください。

 1960年にR&Bチャートの2位に輝いただけあってカッコいいですね。
 ではフライング・リザーズによる『Money』を聴いてみましょう。

 この曲はローリング・ストーンズビートルズもカバーしていて、どれもそれなりにいいんですが、フライング・リザーズのは比較にならないぐらい個性的で、しかも歌詞の持つアンニュイでデカダンな味わいが見事に表現されています。
「お金ちょーだい。あたし、お金が欲しいの」
 以外は18禁過ぎて書けませんが、これを退廃的な社会の反映とみるのは間違いで、うわべを取り繕って社会を腐らせる大人への抗議とみるべきでしょう。ニュー・ウェーブは、サラリと聴く都会風の心地よいサウンドが多いんですが、しっかり内容に踏み込めばこれがポスト・パンクであり、カウンター・カルチャーであることがよく分かります。

 『Money』のヒット後、フライング・リザーズは3枚のアルバムを発表しましたが、デビュー・アルバムこそ全英のアルバムチャートで60位という、ニュー・ウェーブとしては記録的なヒットを記録したものの、その後は鳴かず飛ばずで、思い出したように1996年に3枚目のアルバムを出して以来は、解散したのか雲散霧消したのかも分からない状態で今に至っています。元々コアがないわけですから、それでいいんでしょうけどね。
 平成生まれの音吉の長男が高校生のときに『Money』を聴かせたことがあるんですが、
「なんだよ、これ。超ヤバいじゃん。カッケぇ!」
 と絶賛。1979年のナンバーと知って絶句していましたっけ。本当にカッコいいものは時代を超えるんですね。