音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

アイスランドのロックバンド『シガー・ロス』

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 シガー・ロスSigur Rós)というロック・バンドをご存知でしょうか?
 1994年にアイスランドレイキャヴィクで結成され、コア・メンバーのヨンシー・ビルギッソン(Jón Þór “Jónsi” Birgisson, 1975 - )とゲオルグ・ホルム(Georg “Goggi” Hólm, 1976 - )他一名の3名でスタートし、現在はヨンシーとゲオルグの2名で活動を続けています。
 バンド名は結成日に誕生したヨンシーの妹の名前を貰ってつけられています。ちなみに "Sigur Rós" とはアイスランド語で「薔薇」のこと。
 別に「薔薇」とは関係ないんですが、ヨンシーは自身がゲイであることをカミングアウトしていて、このことが曲によっては色濃く反映されています。

 シガー・ロスを初めて聴いた方は、
「これがロック?」
 と思うかもしれませんね。たしかにフツーに思い浮かべるロックとは違う作風ですし、この曲の場合は完全にインストルメンタルです。
 ジャンルの迷宮には入り込みたくないのですが、さらりと踏み込みますと、シガー・ロスは、イギリスの音楽ジャーナリストで作家のサイモン・レイノルズ(Simon Reynolds, 1963 - )が1994年にカテゴライズしたしたポスト・ロック(Post-rock)に属しています。具体的には、例えばギターを「ジャンジャカジャカジャカ♪」みたいなリフレインやコード進行のためではなく、音色・音響を創生するツールとして用いる点に注目して「従来のロックと変わらない楽器構成なのに、それまで(1994年時点)とは違う音作りをしている」のがポスト・ロックだということでしょうか。
 これはヴォーカルについても言えることで、歌をメッセージとして用いるのではなく、他の楽器と変わらず音の一部とみなすような傾向が顕著です。これが極端になると、先の曲のようにヴォーカルも入ってはいますが、基本、インストルメンタル・ミュージックになっちゃう。

 だから、というわけではないんでしょうけれど、シガー・ロスの発表するミュージック・ビデオは質が高く、内容的にも下手な映画以上の出来で、音吉は新曲が出るたびに観賞を楽しんでいます。歌詞は大切なものなんですが、時として言葉は音楽への集中を妨げ、音楽が与えてくれる広大なイマジネーションを柵で囲ってしまいます。彼らがそれを意図しているかどうかは分かりませんが、結果的に言葉の呪縛から音楽を解き放とうとしているように思えますし、それで生じるメッセージ性の欠如を映像で補完していると音吉は感じています。

 何もかもが「北」を想起させるシガー・ロスですが、彼らのサウンドや映像には、凜とした冷気の中で生きる人々のぬくもりや哀楽がシンプルに感じられます。
 言葉を軽視するわけではないけれど、言葉の力に頼らずに商業主義という断崖から身を投げ、リスナーの支持を得て飛翔したシガー・ロスは、今も変わらず「音楽にフィットする意味不明なボーカルの形」をひっさげて、静かに暴れ続けています。

 

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