音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

リゲティと『2001年宇宙の旅』

www.youtube.com

 

 スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick, 1928 - 1999)監督の名作『2001年宇宙の旅("2001:A Space Odyssey", 1968)』を音吉少年が観たのは小学3年生の夏休みでした。どこで観たのかはよく思い出せないのですが、たしか従兄に付き合ってもらって銀座に行ったと思います。
 春先の日本公開直後に観たという友達の、
「メチャクチャ面白かった」
 という感想を聞いて以来、既に田舎に越して近所に映画館の「え」の字も無いような環境に放り込まれていた音吉は、夏休みの上京をジリジリと恋い焦がれる思いで待っていたんです。なので映画館に行く前日の夜は、ほとんど眠れないほど興奮していました。
 ところが、です。映像や音楽に圧倒されてしばらくは見入っていたものの、内容は今ひとつちんぷんかんぷん(今もそうかも)で、ちゃんと寝ていなかったのも相まって眠ってしまいました。
 従兄に肘鉄をくって目が覚めましたが、すでにその時は映画も終盤にさしかかっていて、ストーリーの全容が分かったのは高校生になってからでした。まあ、全部観ていたとしても分からなかったと思いますが。
「ヨダレ垂らしてイビキまでかいて、ホントに恥ずかしかった。あんだけ観たがってたのに何だよ!」
 と、後で従兄に散々、小言を言われちゃいました。
 内容も分からず、結果、映像の斬新さもピンとこない。それでも音吉には大きな収穫がありました。それは映画で使われていた音楽の素晴らしさです。
 カラヤン指揮のウィーン・フィルによる『ツァラトゥストラはかく語りき』のことではありません。映画の方々で使われていた現代音楽と思しきものに、背中がゾクゾクするほど神秘的な美しさを感じたんです。
「あれは効果音だろ。曲なんかじゃないさ」
 曲名が知りたいという音吉に従兄はそう言いましたが、そうは思えませんでした。いや、あれは立派な音楽だ。効果音だったって構わない。あんなに不思議で美しいサウンドがレコードになっていたら欲しい。
 ほどなくサウンド・トラックのレコードが発売されたのでレコード店で調べてみたら、知っている曲に混じって、リゲティという作曲家の『無限の宇宙(アトモスフェール)』という聴いたこともない曲が収録されているのを知りました。
「たぶんこれだ」
 とは思ったのですが、小学生には高価なLP盤を「あれかもしれない」というたった一曲のために買うことはさすがにできませんでした。
 リゲティリゲティ・ジェルジュ・シャーンドル, Ligeti György Sándor、1923 - 2006)がハンガリーオーストリア人の作曲家であることを知ったのは、小学6年生の時でした。以前にも書いたNHKーFMの『現代の音楽』で紹介されたんですが、すぐに『2001年宇宙の旅』のサントラ盤を思い出して喜びのあまり飛び上がりました。番組で流れた曲(覚えている名前に該当する曲が見当たらなかったのでここでは書きません)は残念ながら映画の挿入曲ではありませんでしたが、作曲家が判明したのは大きな収穫でした。
 結局、映画で使われていた曲が『Atmosphères, 1961』『Requiem, 1963/65』『Lux Aeterna, 1966』『Volumina, 1961/62 rev.1966』の4曲であることを知り、『Atmosphères』と『Lux Aeterna』を輸入盤で手に入れたのは大学生になってからでした。
 レコードに針を落とし、ようやく音楽をフルで聴けた時の感動は今でも忘れていません。
「どうすればこんな音楽が作れるんだろう」
 この答えは、還暦を迎えた今でも解けない謎です。ただ、
 「人の想像力には未だに今を突き抜ける力があるのだ」
 という希望があることだけは確かでしょう。バッハやブラームスが考えもつかなかった音の世界があったように、リゲティや武光徹も想像ができなかった音楽があるはずだからです。リニアなんか乗れなくてもいいから、でき得ることなら、そんな音楽に出会ってから地上を去りたいものだと願わずにはいられない欲張りな音吉爺さんです。