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野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

ショパン『幻想即興曲』聴き比べ

 今日は、小学生の音吉が熱に浮かされたように聴いていたショパン(Frédéric François Chopin, 1810 - 1849)の作品から『幻想即興曲即興曲第4番嬰ハ短調 作品66, Fantaisie-Impromptu)の聴き比べをしてみたいと思います。
「同じ曲でしょ、じゃあ誰が弾いても一緒なんじゃない?」
 そんな声が聞こえてきそうです。クラシック音楽に興味がなければ、楽譜通りに演奏するんだから、誰が演奏しても同じに聞こえるだろうと思うのは無理もないことです。
 もちろん実際はそうではありません。論よりなんとやらで、早速、聴いてみてください。
 ショパンの『幻想即興曲』は、
「僕が死んだら、楽譜を燃やして処分してね」
 と遺言したものの、友人のユリアン・フォンタナ(Julian Fontana, 1810 - 1869)がこれに背いて1855年に出版したというエピソードが残っています。どういう理由か知りませんが、そんなに遺したくない作品なんだったら自分で始末すればよさそうなもんですが。
 尚、初版が写筆譜に基づいて出版され、1962年になって見つかった自筆譜との間にかなりの違いがあることが判明しています。最近の研究では、写筆譜のほうが自筆譜より古いのではないかといわれています。
 
 さて、聞き比べのトップ・バッターはアルフレッド・コルトー(Alfred Denis Cortot, 1877 - 1962)です。ショパンを得意とするピアニストとしては一丁目一番地に名前の挙がる演奏家で、テンポ・ルバート(柔軟にテンポを変える奏法)を駆使して詩情豊かなショパンを聴かせてくれます。ショパンの学術的な研究でも知られていて、ショパンについての著作は邦訳本(『ショパン』[新潮文庫])もあります。


 アルフレッド・コルトーに見出されて才能を開花させたのがサンソン・フランソワ(Samson François, 1924 - 1970)です。彼の演奏は「独創的」の一言に尽きます。師匠譲りのテンポ・ルバートを変幻自在に駆使した、「フランソワのショパン」といって差し支えないほどの境地を確立した孤高の天才です。ちなみに音吉はサンソン・フランソワショパンが大好きです。


 ウラディーミル・アシュケナージ(Vladimir Davidovich Ashkenazy、1937 - )は、言わずと知れた名ピアニストですね。彼はコルトーやフランソワのような個性を前面に出すタイプではなく、卓越した演奏技巧で難曲を余裕綽々と弾き、音の美しさを引き出してみせる、言ってみれば現在活躍するピアニスト達の先駆者というべき存在です。演奏には癖がなく、安定した美しさでショパンを楽しみたい方にはお薦めのアーティストです。


 本当はマルタ・アルゲリッチ(Maria Martha Argerich, 1941 - )をここで挙げなければならないのですが、残念ながら『幻想即興曲』の音源が見つからなかったので、彼女の紹介は後日。今日はマリア・ジョアン・ピレシュ(Maria João Alexandre Barbosa Pires, 1944 - )を代打にしたいと思います。大の親日家で来日回数も多いのでご存知の方も多いんじゃないでしょうか。繊細で緻密な彼女のショパンは、大音量でメリハリの効いた演奏は体力的に得手でなく、もっぱらサロンでの演奏を好んだというショパン本来のスタイルと音色を最もよく再現しているかもしれません。


 しんがりは、現代を代表するショパン弾きのユンディ・リ(Yundi Li[ 李雲迪], 1982 - )に務めてもらいましょう。演奏を聴いて頂ければお分かり頂けると思いますが、彼の演奏は正確無比。これは、もっぱらコンクールの成績がものをいう昨今の若手のピアニストに共通したものかもしれませんが、技巧に奔ることなく詩情を忘れない演奏にはアシュケナージがダブります。アジアにも素晴らしいショパン弾きがいるんですね。素晴らしいことだと思います。


 いかがでしたか? 時代や演奏家によって、同じスコアでもこれだけの多様なサウンドが飛び出すなんて、音楽とは真に不思議ですね。それでもショパンは、あくまでショパン。そう言い切れるのも、また不思議です。