音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

子どもの頃にお世話になったピアノ教則本

 ハノンとかツェルニーチェルニー)と聞いて、なんとなくウンザリしたり残念な気分になる人は、子どもの頃に無理矢理ピアノの練習をさせられたか、ピアノは嫌いじゃなかったけど地道な練習が嫌いだったのどちらかだと思います。音吉は後者で、今なおその性癖は改まっておりませんです。
 日本でピアノを学ぶ場合、ハノンを併用しながらバイエルかメトードローズなどの教則本で始まって、ツェルニー100番→30番→40番→50番と練習曲をこなしつつ、バッハのインヴェンションやらモーツァルトベートーヴェンソナタを学ぶっていうのが王道なんであります。
 でも「ハノン」「バイエル」「ツェルニー」と呪文のように唱えるわりには、なんとなく「教則本の作曲者の名前なんだろうなぁ」と思いながらも、それ以上は深入りしないのがフツーなんじゃないでしょうか。
 そこで音吉は、人生60年目にして、この謎(知ってる人は突っ込み厳禁)に深入りしてみようと思います。

 まずはハノンから。
 やっぱり作曲者名でした。シャルル=ルイ・アノン(Charles-Louis Hanon, 1819 - 1900)。フランス語のHanonを英語読みにして「ハノン」なんでしょうね。オルガニストとしての教育を受けた他は、とくに専門の音楽教育を受けた記録がないのですが、それでも優れたピアノ教師であったことは、彼の遺したピアノ教則本『60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト』の評価をみれば一目瞭然です。これこそが世に『ハノン』と呼ばれているものなんです。教育者の一部には強い批判もありますが、古くはラフマニノフを始め、少なくとも前世紀から現在に至るピアニストの多くがフィンガー・トレーニングに『ハノン』を用いています。


 次はバイエルです。
 やはり作曲者名で、こちらはドイツのフェルディナント・バイエル(Ferdinand Beyer, 1806 - 1863)が著した『ピアノ奏法入門書(Vorschule im Klavierspiel op. 101)』のことでした。お父さんは仕立屋のマイスターでしたが、お母さんが地元の教会のオルガニストを務めていて、それが縁で音楽の道に進んだようです。一時は作曲家やピアニストを目指したものの挫折。結局、ピアノ教師として生計を立てることになったのですが、その教師生活の中で生まれたのがいわゆるバイエル教本というわけです。現在でも多くの子供たちが彼の教則本でピアノを学んでいるわけで、もしかするとバイエル教本の曲は「名曲中の名曲」なのかもしれません。

 

 さて、メトードローズについても触れておきましょうか。
 先のハノンやバイエルと違い、『メトードローズ(Méthode Rose)』は「バラのメソッド」という名を冠した練習曲集で、フランスの作曲者指揮者で音楽出版社の経営者でもあったアーネスト・ヴァン・デ・ヴェルデ(Ernest Van de Velde, 1862-1951)が著したものです。日本語版は戦後の日本を代表するピアニスト、安川加壽子(1922 - 1996)が編纂していて一般に「安川加壽子のメトードローズ」といわれることから、教則本自体を彼女の作と思っている人が多いようです。


 ラストはツェルニーです。
 こちらは作曲者名ですね。オーストリアの作曲家でピアノ教師だったカール・ツェルニー(Carl Czerny, 1791 - 1857)のことです。音吉は彼の祖先の言語であったチェコ語ないしは独語の「チェルニー」で覚えていたんですが、なぜか日本では「ツェルニー」ですね。


 ツェルニー自身のことはピンとこないかもしれませんが、彼がベートーヴェンLudwig van Beethoven, 1770 - 1827)やクレメンティ(Muzio Filippo Vincenzo Francesco Saverio Clementi, 1752 - )の弟子で、リスト(Franz Liszt, 1811 - 1886)のお師匠だったといったら、
「ほほー」
 と思いませんか? 
 彼は無名だったというよりは、あまりにも遺した作品が膨大な数で、前世紀には研究に手をつける人がほとんどいなかったために、いわゆるチェルニーの練習曲集として知られる『王立ピアノ学校~理論的かつ実践的ピアノ演奏教程』以外は知られていなかったようです。今世紀に入ってからはウィーン楽友協会が保存している自筆譜の整理と研究が進展した結果、研究家の間では作曲家としても再評価を受けるに至っています。
 ツェルニーもハノンと同じく、正規の音楽教育を受けたことはありませんでしたが、多くの資料から当時の音楽教育に携わる教授や教師から高い評価と信頼を受けていたことは確かで、世に知られる練習曲以外を聴いてみると、彼が並みの作曲家でないことが分かります。
 最後にチェルニーの才能を知ることができる作品をアップしましょう。曲はピアノソナタ第1番変イ長調 Op.7から II. Prestissimo agitato。演奏はダニエル・ブルーメンタール(Daniel Blumenthal, 1952 - )です。