音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

琴と筝 雅楽の楽しみ

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 和琴(わごん)という楽器をご存知でしょうか? 雅楽の、それも国風歌舞(くにぶりのうたまい)という歌舞で使われ、「むつのを(六つの緒)」という俗称でも呼ばれています。見た目は筝(いわゆるお箏[こと])と似たような格好をしていますが、琴と筝は起源も系統も異なる楽器なんです。どちらにも「こと」と「そう」と読むので、よけいにややこしいんですが。
 琴と筝の違いでいちばん分かりやすいのは、弦の数と柱(じ)と呼ばれる支柱の有無です。
 現在の筝の弦の数は基本13本(17本なんてのもあります)で、琴は6本。琴については、中国二十四史の『隋書』倭国伝に、

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春日権現験記絵』巻二。右上に和琴を立奏する姿が描かれています。

「(倭国には)楽に五絃の琴、笛有り」
 という記述がありますし、沖ノ島からは五弦琴のひな型が出土しています。本土でも関東地方で四弦琴の埴輪が大量に出土していますから、おそらく日本古来の琴は四弦と五弦のものであり、形状から膝にのせて演奏したものと思われます。今でも国風歌舞の『東遊(あずまあそび)』では、琴の首尾(両脇)を二人の人に持ってもらい立奏するという不思議な習慣がありますが、もしかするとこうした名残なのかもしれませんね。
 和琴の記録としては神道五部書伊勢神宮所蔵)の『御鎮座本記』に、
「金鵄命、長自羽命、天の香弓六張を並べ、絃を叩いて妙音を調す(天の香弓[あまのかぐゆみ]という御神木で作られた弓を六張り並べ、6本の絃としたものを 金鵄命[きんしのみこと]と長白羽命[ながしらはのみこと]という神が、弓を叩いて妙なる音を鳴り響かせた)」
 とあるのが最古の記述であるとされています。
 これに対して筝は、唐代にあった十三弦のものが奈良時代に伝来し、和琴と同様に雅楽に用いられるようになりました。江戸時代になって筝が一般の人々のたしなみになると、雅楽の筝を楽筝、そうでないものを俗筝と呼ぶようになり、義爪の形状や音色などに違いが生まれます。

 次に音程を調節する柱(現在では琴柱が一般的な名称)ですが、これは筝にはありますが、琴にはありません。したがって琴は弦を抑えることで音程を決めます。

 では音を聴いていただきますが、先述のように和琴は神楽歌や東遊(あずまあそび)などの国風歌舞のみに用いられるため、残念ながら演奏風景の動画はみつけることができませんでした。神楽歌の音源はありましたので、画像と音源だけでお許しください。尚、和琴は和楽器の中では最も格式が高いものとされていて、位の高い者のみ(宮内庁楽部では楽長)が演奏を許されています。

 

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上が琴。下が筝。

『神楽歌』 演奏は宮内庁式部職楽部です。

 次は楽筝(雅楽で使われる筝)です。

管絃『酒胡子』(双調)。演奏は中村仁美さん。
© KFMA 東京藝術大学小泉文夫記念資料室 | Koizumi Fumio Memorial Archives

 六弦で柱のある琴なのか筝なのか分からないものもありましたが、和琴の基本である菅掻(すががき)と呼ばれる6弦すべてを琴軋(ことさき、和琴用のピック)で一気に撥弦する手法を、筝から弦を減らし(弦を張る穴が13あるため)、琴とみたてて演奏しているものと思われます。間違っていたらごめんなさい。

和琴『菅搔』二齣二返 一松神社さんの提供です。

 最後に『催馬楽(さいばら)』から『山城(やましろ)』をアップします。催馬楽は平安初期の庶民が歌った風俗歌の歌詞を雅楽に取り入れた、言ってみれば楽しむための雅楽です。雅楽というと神事のための音楽と思われがちですが、結構、すそ野が広いんですよ。歌詞と一緒にお楽しみください。

催馬楽『山城』 博雅会の演奏です。

山城の 狛のわたりの 瓜つくり
なよや らいしなや
瓜つくり 瓜つくり はれ 瓜つくり
我を欲しと言ふ いかにせむ
なよや らいしなや さいしなや
いかにせむ いかにせむ はれ いかにせむ
なりやしなまし 瓜たつまでにや
らいしなや さいしなや
瓜たつまでに 瓜たつまでに

 

山城国の狛のあたりで瓜を作る人
[お囃子]ナヨヤ ライシナヤ
瓜作りの人 瓜作りの人 ハレ 瓜作りの人
わたしと結婚したいとと言う どうしよう
[お囃子]ナヨヤ ライシナヤ サイシナヤ
どうしよう どうしよう ハレ どうしよう
(結婚話は)まとまるでしょうか 瓜が熟するまでに
[お囃子]ライシナヤ サイシナヤ
瓜が熟するまでに 瓜が熟するまでに