音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

アンリ・デスと『テトペッテンソン』

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 大人になっても絵本や児童文学が好きな人は多いですね。大きな本屋さんでは児童書のコーナーが充実していて、親御さんと小さなお子さんが思い思いに試し読みができるように土足禁止のスペースが設けられているところがあります。面白いのは、そんなスペースで靴を脱いだ大人が一人、黙々と絵本に目を通している姿をみかけることです。サン=テグジュペリの言う「 かつて子供だったことを忘れずにいる大人」は、意外に多いんじゃないんでしょうか。
 そんなこんなで、今回は自分が子どもだったことを思い出せて、しかも元気がもらえる名曲をピックアップしましょう。

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 2002年10月から11月までNHKみんなのうた」で放送されていた『テトペッテンソン』を覚えていますか? 
 クリエイティブ・ディレクターで東京芸大教授の佐藤雅彦(1954 - )が作詞。動画はアート・ディレクターの中村至男(1967 - )が手がけた基本デザインをアニメーターが仕上げるという凝りようで、歌は井上順が担当しました。
「誰が曲を作ったの?」
 と思いますよね。
 作曲をしたのは日本人ではありません。アンリ・デス(1940 - )というスイス人のシンガーソングライターなんです。
 それにしても奇妙な歌詞ですよね。
 
 テトペッテンソン
 テトペッテンソン
 テトペッテンソンタントン
 タトペッテンソン
 タトペッテンソン
 タトペッテンソンタントン
 テトペッテンソン
 タトペッテンソン
 トテペッテンソンタントン
 リンシュレカットン
 シュレリンペットン
 タットレペンテンソン
 
 こんな調子で続くんですが、これは佐藤雅彦がフランスから帰国した折、機内放送で流れたアンリ・デスの曲『ステキなドラム(Le beau tambour)』を聴いているうちに浮かんできたものだとか。
 早速、聴いてみましょう。ただし動画は中村至男デザインのオリジナルではありません。代わりにYouTubeにアップされていた可愛らしいパラパラ動画をご覧ください。音吉はオリジナルよりもこちらのほうが音楽に合っているような気がして大好きです。

 愛らしい曲と歌詞に不思議と元気をもらえませんか? 第九でベートーベンに、

 Freude, schöner Götterfunken, 喜びよ、美しい霊感よ
 Tochter aus Elysium.       死後の楽園の娘よ

 と、尻を蹴飛ばされるよりも音吉には余程、ありがたい癒しです。

 では元歌の『ステキなドラム(Le beau tambour)』も聴いてみましょう。

 J'ai reçu plan plan
 J'ai reçu plan plan
 J'ai reçu un beau tambour

 僕にはプラン(×2)があるんだ
 僕にはプラン(×2)があるんだ
 ステキなドラムを手に入れるんだ

 なんて感じの歌詞です。
「ま、なんて可愛らしいんでしょう!」
 と思ってはいけません。なんでドラムが欲しいかといえば、それは家の廊下だろうがご近所だろうが昼夜の別なく叩きまくるのが目的なんですから。

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 アンリ・デス(Henri Dès, 1940 - )は、西欧のフランス語圏で子供たちに絶大な人気を誇るシンガーソングライターです。それも日本の歌のお兄さんみたいに親が我が子に刷り込む人気とは違って、子どもたちが自発的に「仲間」として敬愛する存在なんです。
 日本では分かりにくいことなので、その一例をご覧ください。若き環境活動家のグレタ・トゥーンベリ(Greta Ernman Thunberg, 2003 - )の呼びかけに世界中の人々が応えて創設された「Fridays for Future」という国際草の根運動があるんですが、この活動の一環としてローザンヌで行われた昨年(2019年)『気候変動学校ストライキ(School Strike for Climate)』にアンリが参加した様子です。78才のアンリが手弁当で会場に出向き、気候変動に抗議するティーンを支援しているんですが、若者たちが如何にアンリ老人を慕い、リスペクトしているかが分かります。サイトに飛ぶと動画がいくつかありますが、いちばん初めの動画にアンリと若者たちの様子が収録されています。

 アンリはすんなりと歌手になったわけではなく、高校を中退して様々な職を転々とした後に歌手を目指した苦労人です。1960年前後に歌手を自称するようになったものの、しばらくは鳴かず飛ばずの日々。1964年には結婚し、息子のピエリック(Pierrick Destraz, 1970 - )と娘のカミーユ(camille Destraz, 1975 - )を授かったのがきっかけで、子ども向けの歌を作るようになったのですが、これが当たったんです。1977年に発売した初アルバム『かくれんぼ(cache-cache)』は1985年にゴールド・ディスクを獲得し、彼の人気は不動のものになり、現在に至っています。
 ちなみに息子のピエリックはロック・ミュージシャン兼過激なヴィーガンとして、娘のカミーユは、やはりロック・ミュージシャン兼ジャーナリストとして活躍しています。表現者としてのアンリの子供たちも目が離せません。

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