音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

マイク・オールドフィールドと映画『エクソシスト』

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 七夕豪雨で始まり、テレビがウォーターゲート事件一色に染まり、三菱重工爆破事件で終わった1974年の夏休み、中学2年生だった音吉は3人の悪友とつるんで映画館に出かけました。ホントは行きたくなかったんですが、
「音吉、怖えんだろう」
 という挑発に乗ってしまったのが運の尽きでした。
 当時としては本当に怖い映画だったんです。ウィリアム・フリードキン(William Friedkin, 1935 - )監督の『エクソシスト(The Exorcist)』。今でこそ特撮もお粗末に感じられて、
「なんでこんなものが怖かったんだろう?」
 と思える映画なんですが、怖いわ・グロいわ・キモいわの3点セットで、音吉は映画の3分の2は目をつぶっていました。

 撮影中に事故が頻発したとか、映画を製作したのはフリードキン監督ではなく本物の悪魔なんだとかいう馬鹿馬鹿しい話がまことしやかに流れていて、夏休みの宿題をほったらかして親にしこたま叱られたことや、ガールフレンドと喧嘩してビンタをくらったことが、
「ほれみろ、あの映画を観た呪いだ」
 と思えたり(単なる自業自得なんですが)して、いいことはひとつもありませんでした。
 いや、ひとつだけ収穫がありました。目はつぶっていても耳に飛び込んでくる劇伴音楽です。透明感があって美しい音楽が選ばれていて、シーンの凄惨さを逆に浮き上がらせているんです。少女の首が回転するカリカリという効果音なんかも混じるのはいただけませんでしたが。

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 この映画で一躍有名になったのが映画公開時に20歳だった英国のミュージシャン、マイク・オールドフィールドMike Oldfield, 1953 - )です。

 デビュー・アルバムとなった『チューブラー・ベルズ(Tubular Bells)』は1973年5月に発売されると7月の全英アルバムチャートで31位で初登場、9月にはトップ10入りを果たします。更に12月には『エクソシスト』のテーマ曲に採用されたことでマイク・オールドフィールドは世界的なスターとなり、発売15か月目にアルバムは全英1位を記録。アメリカでも一九七四年月にはビルボード200で3位。同年のグラミー賞ででは最優秀インストゥルメンタル作曲賞を受賞しました。

 ヨーロッパ各国のアルバム・チャートまで入れると、このアルバムは約2年間にわたってどこかの国のチャート・トップ10に入り続けるという快挙を達成しました。販売数でみれば英国で270万枚以上、世界では推定で1,500万枚を売り上げたことになります。シングルじゃなくてアルバムなんですから驚くほかはありません。

 実は、映画のテーマ曲で流れているものは、版権の問題からオールドフィールドによる演奏ではなく、スタジオ・ミュージシャンによる別テイク。オリジナルは(制作当時)19歳のマイクがただ一人、8か月にわたって26種類の楽器を演奏し、2000回以上の多重録音を行うことで作り上げた孤高の逸作なんです。

 どうして一人で制作したのかというと、マイクは元来が極めて内向的で繊細な性格の持ち主だったことや、10代の頃に家庭内の不和が元でコミュニケーション障害に陥り、他のミュージシャンとのセッションはおろか、レコーディングに際して他者が介在するのも難しい状態にあったからなんです。

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 それを思えば、実業家にして大富豪のリチャード・ブランソン(Sir Richard Charles Nicholas Branson, 1950 - )が彼の才能を高く評価し、必要な機材とスタジオを長期にわたって提供しなかったら、このプログレッシブ・ロックProgressive rock)の名作は生まれなかったでしょうし、そもそもマイク・オールドフィールドという天才が世に知られることもなかったでしょう。資本主義下で才能が発掘され開花するには「お金は出すが口を出さない」有能な投資家の存在がどれほど重要かという好例ですね。

 25分のPart Iと23分のPart IIで一曲という大作ですが、イギリスの伝統音楽(British Falk Music, ブリティッシュ・トラッドは和製英語)をベースに多感な青年が織り上げた音のタペストリーは、ひとたび聴き始めると、つい最後まで付き合わされてしまう強い魅力と魔力に満ちた音楽です。疲れた時やリラックスしたい時に是非、じっくりと聴いていただければと思います。

 マイク・オールドフィールドは他の重要なミュージシャンと同様、この後も何回かに分けて紹介していきたいと思っています。