音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

国分寺トーク・ライブとデューク・エリントンの『イスファハン』


 先日(7月19日)国分寺のライブハウス「Art and Jazz M's」で、東京外大教授でジャズ・トランペッターの伊勢﨑賢治さんと現代イスラム研究センター理事長の宮田律のトーク・ライブがありました。
 ジャーナリストや市民活動家、学者、評論家の有志が出資し「市民のためのネット放送局」というコンセプトで設立された『デモクラTV(http://dmcr.tv/)』主催のイベントで、司会はコピーライターで環境保護運動家、そして京都造形芸術大と東北芸術工科大の客員教授をでもあるマエキタミヤコ(前北美弥子)さんでした。
 ハスキーボイスにも似た伊勢﨑さんのトランペットはもちろん、NGOや国連で紛争処理や武装解除などの仕事に携わってきた伊勢﨑さんと、長年にわたって激動のイスラム圏と共に歩み研究を続けてきた宮田律さんのトークは、和やかで楽しい反面、現場を肌で知る者だからこそのリアリティと苦悩を垣間見せる濃い内容のものでした。
 印パ戦争(1947年、1965年、1971年)の経緯を踏まえながら、カシミールの帰属を巡る紛争解決の難しさが年表や概説では分からない心理的な側面で語られたり、最近は「イスラム・ヘイト」と言ってもいい本を書くイスラム学の研究者がいることなど、普段は聞けない専門家の本音に触れることができたのは大きな収穫だったと思います。本当はもっと書きたいのですが、デモクラTVさんに叱られるので、この辺にしておきます。
 音吉の心に残ったのは、「希望」というキーワードでした。ゴラン高原イスラエルへの帰属にトランプ大統領がお墨付きを与えてしまった結果、パレスチナの人々にかつてないほどの失望が広がっているとのこと。とくに生まれた時から希望がなかった世代に属する若者たちの失望は計り知れず、これを放置するのは国際社会にとって非常に危険なのだが、
「どうすればいいのか?」
 と問われても、
「分からない」
 と答えるしかない。ただひとつ、
若い人たちが日々のご飯を食べられるように支援する」
 という故中村哲医師のシンプルな主張が、現場を知る者としての回答なのかもしれない。過去に遡れば、紛争に介入した欧米諸国には中村医師の在りようを模倣してもらいたかった。少なくとも、戦争で民主主義を確立しようなど愚考も甚だしいことを自覚すべきだ、と。
 批判は欧米諸国に留まりません。
小泉内閣以降の日本政府による中東政策、とくにイラク戦争に賛成し、支持したことへの総括を未だ行っていない。これは学者も同様で、失敗を失敗と公の場で認めていないのは極めて遺憾」
 そして最後に、パレスチナの若者たちから、お二人の目線は日本の若者たちへと向けられます。
「日本の若者たちは静かだ。例えば香港の若者たちのように声をあげない。『今時の若い者は』と批判しているのではない。他者に批判的なのが若者。大人は若者が『生意気』であることを押さえつけてはならない。むしろこれを育むべき」
 あらゆる面で現代の日本は寛容の精神を失っていて、イスラム世界を肌で知る者なら、これこそが日本から、とに若者たちから希望を奪っているのではないか、という認識から、
イスラム世界を通じて新たな価値観を創成したい」
 ということでトークは締め括られました。
 信じる心が希望を生み出し、それが愛へと成長していくプロセスこそが人にとっての普遍であるとするのはキリスト教も同じです。子供たちや若者に無限の可能性があることを寛容の心をもって信じる時、私たちには希望が与えられるのです。カトリック教徒の僕にとっても、お二人のトークは心の奥底に響くものでした。
 
 さて、今回の曲は、伊勢﨑さんのトランペットで久しぶりに思い出したジャズの名曲『イスファハン(Isfahan)』です。1963年にデューク・エリントン(Edward Kennedy "Duke" Ellington, 1899 – 1974)と彼の率いるオーケストラがワールド・ツアーでイランを訪れる数ヶ月前に、ジャズ作曲家のビリー・ストレイホーン(William Thomas Strayhorn, 1915 – 1967)が作曲したもので、イランの古都イスファハンの名を冠したジャズの名曲です。
 先のトーク・ライブでは伊勢﨑さんのトランペットによる演奏でしたが、オリジナルではアルト・サックスが用いられています。オリジナルの演奏でサックスを吹いたのはビッグ・バンド時代を代表するジョニー・ホッジス(Cornelius "Johnny" Hodges, 1907 –1970)で、ベニー・グッドマン(Benjamin David Goodman, 1909 –1986)をして、
「私が今までに聴いたアルト・サックス奏者の中で最も偉大な男だ」
 と言わしめるほどのアーティストでした。
 今回ピックアップしたのは3人のアーティストによる『イスファハン』です。トップ・バッターはオリジナルのデューク・エリントンとジョニー・ホッジス、2番手は名テナー・サックス奏者ジョー・ヘンダーソンJoe Henderson, 1937 - 2001)、そして最後は文筆家で作曲家でもあるサックス奏者の菊地成孔(きくち なるよし、1963 - )の演奏で聴いてください。音吉はジョニー・ホッジスが好きなんですが、三者三様に素晴らしい演奏です。