音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

タテタカコと映画『誰も知らない』

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 今回は、音吉が結婚してからのお話です。
 2004年のことです。当時、まだ小学生だった3人の子どもたちと一緒にDVDで映画を観ました。是枝裕和監督作品の『誰も知らない』です。
 この映画は1988年にあった巣鴨子供置き去り事件という実話をもとにしています。シングルマザーが14歳の長男を頭に4人の我が子を残して家を出て行ってしまったという、いわゆるネグレクトですね。 
 母親は月に数万円の生活費を長男に渡し、家賃を支払い、時には様子を見に来ていたものの、長男が下の子ども達の面倒をみる保護者のいない暮らしは一年近くに及びました。その間に長男の遊び友達によって2歳の三女が暴行を受け死亡。保護された時には、コンビニ弁当やスナック菓子だけで食いつないでいた子供たちは全員が栄養失調に陥っていました。
 映画では、実話をもとに構成されたストーリーが、まるでドキュメンタリーのように時系列を追って淡々と描かれています。当時、中学生だった柳楽優弥が演じる長男は弟妹思いで、三女の死も病死とするなど、あくまで実話とは一線を画してはいるものの、実話の本質を損なうことなく進むストーリーはギリシャ悲劇にも似た冷徹なリアリティを感じさせるものでした。
 音吉の子どもたちは、観終わった後、一言も感想を漏らしませんでした。ピンとこなかったのか、はたまた言葉に還元できない思いを抱いたのか。音吉も、訊いてはいけないような気がしたのと、訊くのが怖い気持ちが相半ばして、映画のことはそれっきりになってしまいました。
 ただ一つ、映画が家族に与えた変化がありました。家族全員が映画の主題歌『宝石』を歌ったシンガー・ソングライタータテタカコ(1978 - )のファンになったんです。映画をご覧になった方なら、主人公の明(長男)がコンビニで万引きをするエピソードを覚えているかもしれませんね。その時に店員役で登場していたのがタテタカコご本人です。

 タテタカコは、2007年に毎日放送MBS)の『情熱大陸』で取り上げられたことがあるので、ご存知の方がいるかもしれません。メディアで派手な立ち回りをすることがなく、もっぱら小規模なライブ活動に軸足を置いているんですが、熱心なファンも少なからず。アコースティック・サウンドが大好きで、彼女に似て内観的な性格の次男も、名古屋で彼女のライブがあったときに母親同伴で出かけて行きましたっけ。もう成人しましたが性格は子どものころのまんまですから、たぶん今でもファンだと思います。
 長野県飯田市に生まれ、今も飯田のカルチャーセンターに事務所を間借りし、地元を拠点とするタテタカコですが、地味なキャラと活動にも関わらず、彼女に声をかけるのは常に第一線で活躍するクリエイターたち。『誰も知らない』の他にも、よしもとばなな原作で長尾直樹監督の『アルゼンチンババア(2007)』の主題歌『ワスレナグサ』を歌っていますし、翌2008年にはアニメ映画『しろいうま』の主題歌を、やなせたかしとのコラボで歌っています。最近では『ミスミソウ』の主題歌も担当していますね。
 ライブ前にはいつも「逃げたい」と思いながらも、
「ココロに響くものは残っていく」(『道程』より)
 と信じて舞台に立つタテタカコの歌は、生成りの綿布のように時には優しく、時にはザラザラと無造作に、傷を負った心を偽りのない癒しで満たしてくれます。

 


 

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