音楽なら入れ食いですが何か?

野良ネコ音吉のジャンル破壊音楽ブログ

J.S.バッハ『ブランデンブルグ協奏曲第3番』聴き比べ

 先だって、Facebookのお友達から、
「聞き比べ楽しいですよね。指揮者別も面白いですよ」
 というコメントを頂きました。まことにもってその通りだと思い、今回は規模の小さな合奏協奏曲で聴き比べをやってみたいと思います。
 曲はJ.S.バッハブランデンブルグ協奏曲から、いかにもドイツ的なムード漂う第3番ト長調 BWV1048を聴いてみましょう。
 まずはバッハの演奏では定番中の定番ということで、カール・リヒター(Karl Richter, 1926 - 1981)指揮のミュンヘン・バッハ管弦楽団(Münchener Bach-Orchester)による演奏です。音吉と同じく牧師の息子として生まれたリヒターは、音吉とは真逆に軽口とは無縁の寡黙な方だったようで、音吉には想像もつかないほど深いプロテスタント信仰の持ち主でした。はぁ、なんだか自己嫌悪に…。
 リヒターは重要な人物なので、詳しくは別の機会に取り上げたいと思います。聴いていただくのは1970年の演奏です。


 次はカール・ミュンヒンガー(Karl Münchinger, 1915 - 1990)指揮のシュツットガルト室内管弦楽団(Stuttgarter Kammerorchester)です。
 メトロノームを聴いてるんじゃないかと思うほどテンポ・ルバートを排した演奏ですよね。一部のバッハ研究家やファンからは強い批判があがったものの、ドイツへのステレオタイプ的なイメージと親和性が高かったせいなんでしょうか、世界的には高い評価を受けました。1950年の録音です。


 次は、ドイツを離れてイタリアに飛んでみましょう。バッハとは縁遠い印象を受けるイタリアの、しかもヴィヴァルディの『四季』で有名なイ・ムジチ合奏団(I Musici)によるブランデンブルグ協奏曲です。ミュンヒンガーの後に聴くと、驚きの違いです。実に明快で、スッキリとした音色が心地よいですね。室内から陽の差すテラスに移動して演奏しているようで、音吉のような軽い人間には嬉しい1985年の録音です。


 さて、今回取り上げた演奏の中で最も個性的というか、異彩を放っているのが前世紀の偉大な指揮者フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwängler, 188 - 1954)指揮によるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団, Wiener Philharmoniker)の演奏です。音楽評論家の吉田秀和氏が絶賛し、日本でも絶大な人気を誇った指揮者ですが、独創的な解釈のゆえに時として聴衆を戸惑わせることもあり、「振ると面食らう」なんて良いのか悪いのか分からない評価を頂戴したりもしています。此度紹介する演奏について、音吉は感想を控えたいと思います。理由は「どう評価すればいいのかトンと分からない」からです。音が無茶苦茶に悪くて申し訳ありませんが、貴重な録音(1950年)なのでお聴きください。


 最後に聴いていただくのは、今を共に生きるアーティスト達の演奏です。サンフランシスコを拠点として活動するコンソート『Voices of Music』の演奏です。
 明らかにイ・ムジチの流れを汲む演奏スタイルですが、もう一つ、彼らが典型的な現代の楽団である理由は、作曲家が活動していた時期の楽器を用い、当時の演奏技法や演奏スタイルをベースにした上で楽団としてのオリジナリティを確立している点です。これはVoices of Musicに限らず、現在の古楽演奏では主流といってもいい在り方なんですが、羊皮紙と図書館の匂い漂うアーノンクール(Nikolaus Harnoncourt, 1929 - 2016)のような学問的再現というよりは、バッハが現代にタイムトリップしてスタバで作曲し、スタジオ入りして録音したみたいなイメージでしょうか。もしかするとバッハ好きの方の中には、テンポの速さやイケイケドンドン的な組み立てが気になるかもしれませんが、結構、いい感じに仕上がっているんじゃないかと音吉は思います。 余談ですが、Voices of Musicは目下、コロナ禍のために演奏ができず、加えてコンサートのキャンセル料などが発生したために財務状況が悪化したために寄付を募っています。


 楽譜が同じでも、演奏解釈や楽器の違いでこんなに多様性を感じることができるなんて、クラシック音楽は真に奥深く、魅力に満ちた世界ですね!

 

 追伸: 聴き比べに際しては、話が複雑にならないように一演奏家につき、ひとつの動画を掲載していますが、同じ演奏家でも時期によって演奏スタイルが驚くほど変わる場合があります。とくに指揮者の場合は、タクトを振るオケが違えば、まるで違って聞こえるのは当たり前のことですし、自身の音楽を追究するうちに解釈が変わることもあります。その辺のお話は別の機会に触れたいと思います。

 

※ Voices of Musicの演奏は、残念ながら現時点ではCDやMP3音源にはなっていない(iTunesではMP3有)ようです。違う曲で聴いてみたい方は彼らのサイトでCDを直販していますので、そちらからご購入ください。

https://kunaki.com/msales.asp?PublisherId=111319